はじめに
「ムーブメントとしてのシュタイナー」では、シュタイナーの本来の人権思想をはじめ、教育、医療、農業など、多分野をつなぐ「生命」としての価値観のようなもの(それが環境、人権、多文化だと思っているのですが)が実感できるような時間になればと願っています。
現在、シュタイナー学校、医学、農業の分野から、7名のスピーカーにお話しいただくことになっていますが、当日、生きた動きのある話し合いができるように、それぞれの方にお話になろうと思っている内容を文章かメモのようにしてお送りいただきたいとお願いしています。また、参加申し込みをされた方々にも、質問やお考えをお送りいただければ、スピーカーの方々にお届けしたいと思っています。それによって「意識の動き」につなげられたらと思います。
もちろん、レジュメではありませんので、この内容とはまったく違うお話をされるかもしれませんが、お互いに事前の思いを伝え合うことで、お互いに触発され、新しい発見があるような場にできたらと切に願っています。
スピーカーの方から、また参加者の方からいただいたコメントは、随時、ここにご紹介させていただきます。皆様も何かお考えが浮かびましたら、「案内」の問い合わせ先アドレスまでお送りください。
小貫大輔さんから
私が話す内容ですが、こんなことを考えています。
intimacyとextimacyについて話したいと思っています。
私は性教育が専門ですが、17年前に日本に戻ってからは多文化教育のこともやっています。そのどちらにも共通するのが「親しい人との関係」=「親密」(=”intimacy”)と「知らない人との関係」=「友愛」(=私の用語で”extimacy”)に関する学びだという点です。
性教育では”intimacy”の学びが自然に”extimacy(友愛)”の感覚に発展することを期待して教育をしています。特にユネスコの「包括的性教育」の発想はそこが明示的です。そして、多文化教育でも、最初から”extimacy(友愛)”を課題にしながら、”intimacy(異なった文化の人と実際に知り合う経験)”なしに語っても「頭の中」だけのことになってしまうという点でやはり同じような構造を持っていると思います。
アメリカの著名な心理学者Paul Bloomは Against Intimacy(反親密論)なんてタイトルをつけたひねくれた本を書いていますが、私は”intimacy(親密な関係)”がもたらす判断力への影響によいところ悪いところがあるとはいえ、”intimacy”を通らずに”extimacy(友愛)”に辿り着くことはないと思っています。というか、それは21世紀的な態度ではない、と思うのです。
17世紀も終盤になって生まれ育った「平等」の感覚、20世紀になって理解の進んだ「自由」の感覚が、今、「友愛」の感覚の理解を求めていると思います。「友愛」も”extimacy”も誰も使わない言葉ですが、SDGsの国際プロジェクトが終わる2030年までには、きっとそれらに相当する言葉が浮上してきて、次の国際ゴールに使われることを願っています。これまで「仁」だとか華厳の「事事無礙(じじむげ)」だとか言葉を探して遊んできましたが、もっと普通の言葉(solidarityとか)が出てくるのではないでしょうか。People-Earth Solidarity Goalsとか。
假野祥子さんから
当日の内容としては「有機体としての農場」「生きているエネルギーと死んでいるエネルギー」をもとにお話しできたらと思います。上手く関連付けて伝えられるかわかりませんが努めます。宜しく御願いします。
小澤周平さん、鴻巣理香さんから
私たち2名からは、「この時代にあってのシュタイナー学校の意味」と題して、今、この時代を生きる子どもたち、その子どもたちの親の皆さんと、教育の場を通して直接的かつ継続的に関わりを持つ者としての立場から、日々感じていることを話させていただこうと思っています。
おそらく、皆さんのお話を聞く中で、私たちの話もそれを受けて用意したものと変わってくるとは思いますが、大人以上に全身全霊で、変化の激しいこの時代を生き、また、その中で成長している子どもたち。
その子どもたちが、12年間過ごすシュタイナー学校の場とは、いったいどんな意味を持ち得るのか。日々教師として子どもたちに関わっていることの意味や、学校を創りまた続けていくことの意味を、今回いただく発信の場に向けた準備として二人で(鴻巣と小澤)見つめ直してみました。
その準備を元に、実感を話させていただこうと思っています。この教育、この学校には、いつも人間が集い、人間と人間が共に育ちあう場だ、ということが一つの軸として話されるかなと思います。
不慣れな発表者ではありますが、皆さんと一緒に力を尽くせればと思っております。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
安達晴己さんから
私個人は、人間性を取り戻す、ということが自分のテーマかなと思っています。
科学的な医学はもちろん重要なのですが、コロナパンデミックで分かったように、科学的なだけでは人の心は動かないし、それを強制されたことで、反動も非常に強まっています。
科学的事実も踏まえて、人間的な医学を実践することが目標ですが、社会の不均衡をそのままにして、社会とそこに属する個人が健康になることはできません。
弱い立場の人をうむ社会構造も、個人を無視するあり方も、人間性とかけ離れたところにあります。
人間性とは、倫理性でもあるし、他者の立場を想像できる力だと言えるし、健康生成論的な力を持つ、ということかもしれません。
でも、当日どのように話せるか、話したくなるかは、当日次第なのですが…
みなさま、よろしくお願いします。
村上典子さんから
2020年4月から、シュタイナー学園に勤めることとなり4年目となりました。
「いのちのはなし 」を保護者のみなさん、そして子供たちに話す機会をいただいています。
性は、心を生きると書くように、その人自身の生き方に深くかかわることです。
生まれたばかりの赤ちゃんを抱きしめることから「私」と「あなた」が始まります。
性教育の始まりは、そこからです。
私が保護者にも、子どもたちにも伝えている7つのポイントがあります。
1. 命が生まれるために必要なもの
2. 尊厳は人から人に贈り物として与えられる
3. 何もできない存在で生まれてくる人間の赤ちゃんにだけできること
4. 宇宙時間の中で人はゆっくり育つ
5. 触覚から始まる尊厳教育。つまり、性行為とは双方向性
6. 自分の体のことがわかると、世界の出来事もわかりやすくなる
7. 自由
学園では、授業のカリキュラムと性教育の繋がりについて取り組んできた経緯があります。
その繋がりを今後さらに整えて12年を通してのカリキュラムにしていきたいと思っています。
参加予定者からのご質問・ご意見
ドイツの幼稚園で働いている方から
当日はぜひ、東海大まで足を運ぼうと思っています。
今回のテーマとは別になってしまうかもしれませんが、
-100年前に確立されたシュタイナー教育を、現代に取り入れるにはどうしたらいいのか。(どうアップデートしたらいいのか)
-それぞれの地域(ドイツと日本は文化が違う)に合うように取り入れるのはどうしたらいいのか。
この二点を、ぜひみなさんにお伺いしたいです。
当日を楽しみにしています。
日本バイオダイナミック協会の会員の方から
シュタイナー教育における園芸教育(農業)の意味について考えて来ました。
すなわち、9歳(3年)の危機における米作りと家づくりと、6年から9年まで続く園芸授業についてです。
改めて繰り返すまでもありませんが、9歳の時、精神的へその緒というべき母親との結びつきがふっつりと切れ世界が客観的に眼に飛び込んで来、生命の有限性とか、それまで夢の中で生きて来た子どもにとって現実が見えてくる時期です。
この時、自分の手で食べ物を作り全学年各家庭に一袋の玄米を贈り、仲間たちと自分の手でこの地球上に居場所を作る体験を通して、この地上に自分の存在をしっかり根付かせる体験をします。
また、体力のついてくる12歳の時、善にも悪にも使える力を生産に向ける体験をします。
そして9年時にバイオダイナミック農場で2~3週間の農業実習を行う事で、園芸教育を仕上げます。南阿蘇ぽっこわぱやソフィアファ―ムがその任を担っています。
核家族化や社会との分断が進む現在の日本社会で、公立教育の場でも広げることが可能ではないか、と夢みています。
ミシェル・フロラン氏が来日時訪ねて講座を開いた山梨牧丘の澤登ブドウ農園や、澤登早苗先生が園芸教育を実践されている多摩市の恵泉女学園大学(2024年より募集停止で廃校予定)のメソッドを引き継ぐような形を考えています。